退職金の安全な運用方法は?老後を安心して過ごすための資産づくり

退職金は、老後の生活を守る大きな助けとなってくれるものです。大切な退職金を安全に運用し、できるだけ長持ちさせるためにはどうしたらいいのか。安心して老後の生活を送るための資産づくりの考え方と、退職金の運用方法についてまとめました。

退職金はボーナスとは違う

退職金の額は、数百~数千万円に及ぶこともあり、会社員が一度に受け取るお金としてはかなり高額です。そのため、退職金が入ったことで気が大きくなり、退職記念の海外旅行や高級車の購入、住宅のリフォームなどに、景気良く使ってしまう人もいます。

しかし、退職金は臨時的な収入であるボーナスとは異なります。無計画に使ってしまうと、老後破産という最悪の事態を引き起こしてしまうかもしれません。たとえ2,000万円の退職金があったとしても、60歳から65歳までの生活費として毎年400万円を取り崩せば、年金をもらい始めるころにはすっかりなくなってしまう計算になります。

退職金は、退職から年金をもらい始めるまでの無収入期間や、年金生活における生活費の不足を補うために使える大切な資金です。老後の資金計画をしっかり立て、計画的な運用と取り崩しが、長生きリスクの軽減につながるのです。

退職後の生活にはいくら必要? 

老後の資金計画を立てるために、まず、退職後の生活にいくらかかるのかを見てみましょう。総務省統計局の「家計調査年報」の2020年の結果より、単身世帯と2人以上世帯について、世帯主が65歳以上の場合の平均支出額をご紹介します。

・単身世帯
単身世帯で世帯主が男性の場合、1ヵ月の平均的な支出は13万3,146円です。1年間の総支出は159万7,752円。仮に老後期間が25年だとすると、合計で3,994万3,800円が必要という計算になります。年金の受給額は考慮していませんが、思った以上に大きな額の生活費がかかることがわかるでしょう。

・2人以上世帯
2人以上の世帯の場合、1ヵ月の平均的な支出は22万4,390円です。年額に直した場合、269万2,680円。老後期間が25年だとすると、6,731万7,000円が必要ということです。
ただし、これは夫婦2人世帯だけでなく、世帯主が65歳以上の2人以上で暮らす世帯すべてが含まれています。

前提として、具体的に必要な金額は、それぞれの暮らし方によって変わります。とはいえ、2人以上世帯で年間270万円程度支出していることを思うと、60歳で完全リタイアした場合、65歳までのあいだに270万円5年間=1,350万円が必要ということ。退職金で豪遊している場合ではないことがわかります。

必要な老後資金を具体的に計算してみよう

具体的に、自分たちの老後にいくらの費用が必要なのか、現在の生活費をもとに予測できます。

まずは現在の生活費から、老後になくなると思われる費用(教育費、住宅ローン、60歳払い済の保険など)や、減少すると思われる費用(スーツのクリーニング代など)を差し引く。これに増えると思われる費用(医療費など)や、健康保険料、住民税をプラスして、12ヵ月分の基本的な生活費を算出します。

ここで算出した年間の生活費を、年金が支給される年齢まで、退職金やこれまでの貯蓄などで補う必要があるということです。旅行費用、車の買い替え費用、リフォーム費用、家電購入費用など、臨時的に発生すると思われる費用をプラスしたら、さらに生活費がかかります。

なお、老後の生活でかかる費用を考える際、月々の生活費だけを見ていると、臨時出費に対応できなくなってしまいます。長期スパンである程度余裕を持った計画を立てておくことで、不測の事態に備える余力を持つことができるでしょう。

定年後、20~30年は生活する前提で資金計画を立てる

老後の資金計画を立てるとき、いったい何歳まで生きると想定すべきか迷うこともあるかもしれませんが、基本的に、平均寿命よりも長めに見ておく必要があります。

例えば、厚生労働省の「令和3年簡易生命表の概況 」によると、定年退職の年齢に設定されていることが多い60歳の場合、男性の平均余命は24.02歳、女性の平均余命は29.28歳です。定年後、20~30年は生きることを想定して資金計画を立てるといいでしょう。

退職金の賢い運用方法とは?

退職金を含めた老後資金の運用を考えるとき、「すべての資金を投資する」のはリスクが大きすぎるため避けてください。老後資金のうち何割を投資に回し、何割を元本保証の預金などで運用するかの目安としては、「いつ使うお金か」で決める方法があります。

まず、老後資金を「すぐに使うお金」「近い将来使うお金」「将来に備えるためのお金」の3つに分類してみましょう。

すぐに使うお金

すぐに使うお金は、当面の生活費です。1年以内に使う予定のお金は、ここに分類します。すぐに使うお金は投資に回すと動かせなくなりますし、長期的な運用ができずに元本割れのリスクも高まります。普通預金や2週間定期預金などで運用するのがいいでしょう。

近い未来に使うお金

近い未来に使うお金は、数年後に予定している車の買い替え費用や、リフォーム費用、1年以上先の生活費などです。このようなお金は、必要な時期まで、ある程度年月をかけて運用することができますから、元本割れのリスクが低い国債や定期預金を利用し、少しでも多くの利息を得られる運用を行ってください。

将来に備えるお金

将来に備えるお金は、万が一の病気や介護、長生きリスクなどに備えるお金です。5~10年以上先の生活費についても、ここに含めていいでしょう。投資期間を長く確保できるため、投資信託などの商品で運用し、必要になるときまでに一定の運用益を出すことを目指します。

大切な退職金を失わないために覚えておきたい3ヵ条

大切な退職金を無駄にしないためには冷静な判断も大切。そこで、退職金の運用で失敗しないために覚えておきたい3ヵ条をご紹介します。

1. 投資商品をすすめられるがままに即決しない

退職金を受け取った後、銀行や証券会社から投資商品の勧誘を受けることがあります。このような勧誘のすべてが悪いわけではありませんが、勢いで投資を決めてしまうのは危険です。

例えば、非常に高い利率の投資商品を紹介され、魅力的だと感じても、詳しく調べると手数料が高く、最終的な収支はさして望めないということも。投資商品は、すすめられた内容を鵜呑みにせず、自分自身で情報を集め、本当にそれが良い商品なのかを判断した上で選びましょう。

2. 複数の商品に分散して投資を行う

ひとつの企業の株式に資産の全額を投資するのは危険です。その会社の株価が大幅に下落したり、倒産したりした場合、大切な老後資金の一切を失うことにもなりかねません。
投資をするときは、複数の投資先に分散投資を行い、リスクを軽減することをおすすめします。

3. 低リスクの商品で運用する

老後資金は、ハイリスクハイリターンの投資商品ではなく、ローリスクローリターンの投資商品で運用するのが基本です。
大切な老後資金を失わないためにも、短期間で高利益が期待できるようなハイリスクハイリターンの商品ではなく、長い時間をかけてゆっくりと増える可能性がある商品を選びましょう。

退職金の運用におすすめの手法5選

最後に、退職金や老後資金の運用におすすめの運用方法を5つご紹介します。どの投資商品なら安心か判断できない人は、この中から投資先を選んでみてはいかがでしょうか。

1. 円定期預金

円定期預金は、老後資金を計画的に取り崩していくのに便利な手法です。例えば、今後10年間の資金について、10年、5年、1年と、満期の期日をずらした定期預金に分散させることで、計画以上のお金を使ってしまうリスクを低減できます。
どうしてもお金が必要になって解約しても、定期預金は元本割れすることがありません。普通預金よりも利率が高いことも多いため、老後資金の運用先のひとつとして活用したい方法です。

2. 外貨預金

外貨預金は、円預金よりも高い利率を期待できる投資商品です。ただし、預金保険の対象ではなく、為替レートの変動リスクや為替両替手数料がかかるといったデメリットもあり、円定期預金と比べるとリスクは高め。当面使う予定がないお金について、日本円以外の通貨で運用して国内のインフレリスクに備えたい場合などに、利用を検討しましょう。
なお、情勢が安定しない国の外貨預金はリスクが高いため、老後資金の運用にはおすすめできません。多少利率は低くても、経済や政治の安定した国の通貨を選ぶのが安心です。

3. 国債

国債は、安定性の高い投資商品です。日本という国自体がなくならない限り、日本国債の価値がなくなることはありませんから、長期的に使わないお金は国債で運用するのもひとつの方法です。償還を受けるまで保有していれば元本保証がある、保有する期間を選べるといったメリットもあります。

4. 投資信託

投資信託は、手軽に分散投資ができる魅力的な投資商品です。ただし、投資信託にもいろいろな種類があるため、どこに投資している投資信託なのか、運用成績はどうなのかを理解した上で選びたいところ。
また、投資信託にかかる手数料や信託報酬などのコストについても意識する必要があります。ノーロードファンドと呼ばれる手数料がかからない投資信託を選んだり、運用益が非課税になるNISAやつみたてNISAを活用したりなど、効率的な運用を行いましょう。

5. ファンドラップ

ファンドラップは、専門家がそれぞれの人に適した投資商品を組み合わせ、個別に提供してくれるサービスです。投資の知識がなくても簡単に利用できるメリットがある反面、手数料が高いため、投資利益が出ても実際に受け取れる差益は少ない場合があります。運用成績を確認するとともに、実質的なリターンを意識しながら検討しましょう。

なお、ファンドラップに似た運用方法に、人間ではなくAIが分散投資を行う、「ロボアドバイザー」があります。AI投資は比較的新しい投資方法ですが、ファンドラップよりも手数料が低いため、コストを抑えたい場合には検討してみてください。

退職金の運用前に老後に必要な生活費を計算してみよう

退職金をできるだけ安全に運用するためには、まず、老後に必要な生活費を計算することから始めましょう。その上でどのくらいを投資に回し、どのくらいを貯蓄に回すのかは、「すぐに使うお金」「近い将来使うお金」「将来に備えるためのお金」の3つに分類し、まずは将来に備えるためのお金から投資に回したいところ。
老後資金の運用バランスに悩んだときは、ファイナンシャルプランナーや銀行など、複数の専門家に相談してみることもおすすめです。


監修
吉田 祐基
ライター・編集者。AFP/2級FP技能士。マネー系コンテンツの制作が得意。これまで東洋経済オンライン(東洋経済新報社)、日本経済新聞(日本経済新聞社)、Finasee(想研)などで企画・編集・執筆を担当。

 

執筆者プロフィール

  • 本稿は、執筆者が本人の責任において制作し内容・感想等を記載したものであり、SBI新生銀行が特定の金融商品の売買や記事の中で掲載されている物品、店舗等を勧誘・推奨するものではありません。
  • 本資料は情報提供を目的としたものであり、SBI新生銀行の投資方針や相場説等を示唆するものではありません。
  • 金融商品取引を検討される場合には、別途当該金融商品の資料を良くお読みいただき、充分にご理解されたうえで、お客さまご自身の責任と判断でなさるようお願いいたします。
  • 上記資料は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性をSBI新生銀行が保証するものではありません。

前へ

投資の失敗とは損失ではない?知っておきたい失敗を招く行動と考え方

次へ

【最新版】知っておきたい生命保険料控除の仕組み