【焙煎士に聞く】コーヒーの魅力を引き出す焙煎という技の奥深さ

コーヒーは、生豆を加熱する焙煎という工程を経て、普段よく目にする茶色いコーヒー豆になります。焙煎は、コーヒーの風味や香りを決定づけるとても重要な作業です。しかし、豆の種類や選び方、焙煎による味の変化など、一般の人があまり知らないことがたくさんあります。

そこで、スペシャルティコーヒーの自家焙煎店「Roast Design Coffee」の代表であり、ロースター(焙煎士)※でもある三神仁美さんと、同じく焙煎士であり、同店でコンサルタントと品質設計も務める三神亮さんに、コーヒーと焙煎の奥深い世界について伺いました。

※コーヒー豆の焙煎を実際に行う人のこと。焙煎を行う前にコーヒーの生豆の品質を見抜き、焙煎機でその生豆に合わせて絶妙な加熱を行うなど、熟練の技をもつ人だけが名乗ることができる。

コーヒーをおいしく飲むために欠かせない焙煎とは?

――焙煎によってコーヒーの風味はどのように変化するのですか?

三神亮さん(以下、敬称略):
生豆に比べて焙煎したコーヒー豆は、味覚成分や芳香成分が多くなります。熱を加えることによってコーヒー豆の成分が変化し、味覚や芳香のバラエティが広がるんですよ。
例えば、ワインの芳香成分は約200種類といわれていますが、焙煎豆に含まれる味や香りの成分は800種類以上。焙煎の工程を経ることで、コーヒーという飲み物の表情がより豊かになるんです。

――焙煎をしなくてもコーヒーは飲めるのでしょうか?

三神亮:
飲めますよ。コーヒーの生豆から抽出した飲み物は「グリーンコーヒーエクストラクト」と呼ばれ、日本でもコンビニで販売されたことがあります。でも、生豆は硬いので、一般的なグラインダー(コーヒーミル)では挽くことはできず、仮に挽くことができてもグラインダーが壊れる可能性があります。また、火が入っていないため味がシンプルで、コーヒー豆の銘柄ごとの違いはわかりづらいと思います。

コーヒーの生豆。焙煎しなくてもこの状態で挽いて飲むことは可能。

――「浅煎り」や「深煎り」といった言葉をよく聞きますが、焙煎の浅い・深いはどこで区別しているのでしょうか?

三神仁美さん(以下、敬称略):
豆の色味と、あとは純粋に味の違いでしょうか。ロースターによっても基準に差があるので、「ここまで浅煎り」「ここから中煎り」などと、厳密に線引きするのは難しいですね。他店で「浅煎り」とうたっている豆を試してみたら、「うちの浅煎りよりだいぶ深い」ということもあります。

三神亮:
一般的な名称は、浅いものから、ライトロースト、シナモンロースト、ミディアムロースト、ハイロースト、シティロースト、フルシティロースト、フレンチロースト、イタリアンローストと呼ばれています。
しかし、フレンチローストとイタリアンローストが、逆になっているケースもあるんですよ。

一般的な焙煎の名称。最も浅いライトローストから、右下のイタリアンローストまで基本は8種類あるが、その線引きはロースターによって異なる。

――実際に焙煎をするときは、どうやって狙いどおりの味や香りを出すのですか?

三神仁美:
ロースターによって焙煎方法はさまざまです。目指す味によって焙煎のやり方は変わってきますが、中には決まった方法にこだわりを持っているロースターもいらっしゃいますね。

三神亮:
Roast Design Coffeeの場合は、その豆の最も大切にしたい特徴を際立たせるために、ほかの要素を削ぐというイメージで焙煎します。例えば、「きれいで軽やかな風味にしたいから、あえて甘さや質感の強さを削ぐ」といった感じですね。これは、焙煎と抽出の両方で心掛けていることでもあります。

――焙煎したコーヒー豆は、すぐに飲んだほうがいいのですか?

三神仁美:
「コーヒーは焙煎したてがおいしい」と思われがちですが、一概にそうともいえません。焙煎直後は豆の中に炭酸ガスの成分が多く、コーヒーを入れるときにうまく成分を抽出できないことがあります。コーヒーをドリップしたときに、モコモコと泡が膨らむようになるのを見たことはありませんか?あれが炭酸ガスです。ですので、焙煎してから数日経って、適度に炭酸ガスが抜けた状態のほうがおいしく飲めると思いますよ。

なお、焙煎後1、2週間くらいはおいしさのピークを保てますが、飲みきれずに豆が残ってしまった場合は、冷凍庫での保存がおすすめです。

――コーヒーを上手に入れるコツを教えてください。

三神仁美:
ハンドドリップの場合は計量が大事です。なので、キッチンスケールを使うことをお勧めします。スプーンや目分量で量っている人も多いかもしれませんが、コーヒー豆は1、2g重さが違うだけでも味わいが大きく変わります。一見、同じくらいの量でも、豆の密度によって重さが違うこともあるんですよ。 豆とお湯の割合は焙煎具合によっても変わるので、コーヒー豆を購入するお店で聞いてみてくださいね。

バリエーションは多種多様…焙煎はココがおもしろい!

――焙煎方法にはどのような種類があるのですか?

三神仁美:
焙煎機は、「直火式」「半熱風式」「熱風式」などさまざまな種類があり、それぞれコーヒーの味わいも変わってきます。
わかりやすくいうなら、豆に直接火をあてるか、直接火であぶらずに熱風で焼くかという違いですね。

三神亮:
お肉に例えるなら、「直火焼き」「フライパン」「オーブン」といったイメージです。Roast Design Coffeeで使用している焙煎機は半熱風式で、フライパンで焼くような「伝導熱」と、オーブンのような「対流熱」の2種類の加熱方法を組み合わせた形になります。基本的には毎日午前中に焙煎して、その日のうちに店頭に並べています。

Roast Design Coffeeの半熱風式焙煎機。焙煎を行う時間には、お店の外にまで香ばしい香りが広がる。

――焙煎方法によってコーヒーの味や香りに違いはあるのでしょうか。

三神亮:
豆の味は、焙煎中の温度上昇や時間によっても影響が出ます。焙煎方法は温度と時間によって、ざっくりと「高温短時間焙煎」と「低温長時間焙煎」の2つに分けられますが、高温短時間焙煎は酸味と風味が強くなり、低温長時間焙煎は甘さと質感が強くなる傾向が見られます。
ただしこれは、ロースターによって理論や考え方はさまざまなので、一概にはいえません。

――生豆の種類によって、焙煎の温度や時間を変えることもあるのですか?

三神仁美:
多少はありますね。私の場合はそれほど大きく変えませんが、ボトム温度(生豆を投入した後、焙煎中、最も低下した温度)や余熱などで調整することもあります。

三神亮:
生豆は、品種や大きさ、水分、密度、生産処理方法などによって状態が異なります。生産処理とは、収穫したコーヒーの実からどうやって生豆が作られたかという工程のこと。果肉をむいてから発酵槽につけて粘液質を取り除き、水洗いして乾燥させる「水洗式(ウォッシュド)」や、そのまま実ごと乾燥させ、脱穀して生豆を取り出す「非水洗式(ナチュラル)」といった方法があります。

焙煎の仕方は、生豆の状態やそれぞれの味をどのように出したいのかによって変えるんです。

生豆が元々持つ色合いに加え、生産処理方法によっても色味が変わる。

水洗式(ウォッシュド)の場合は焙煎した豆の真ん中に黄色い線が入るのが特徴(左)。非水洗式(ナチュラル)では、豆の中全体が褐色に色づく(右)。

――豆の産地や品種によって、コーヒーの味わいにはどのような違いがあるのでしょうか?

三神亮:
コーヒーの味わいを形成する大きな要因は、「土壌や気候、環境要因といった生育地の条件」「品種」「収穫時の実の熟度」「生産処理」「栽培から流通に至る品質管理」の5つです。さらに、国や地域によっても味が異なります。

例えば、「エチオピア産は甘さがあってフローラル」「コロンビアはすっきりしたマイルドな酸味」など、大まかな傾向はあるものの、さまざまな要因の組み合わせで味わいに多様性が生まれます。それぞれの味や香りをどのように引き出すのか、または削ぐのかは、焙煎や抽出によって変えることができます。

――焙煎をする上で心掛けていることを教えてください。

三神仁美:
コーヒー豆が持つ素材本来の風味や、浅煎り特有の酸味やきれいさを引き出し、豆の個性の違いをお客様に感じていただけたらと思っています。味を無理矢理作るのではなく、素材そのものの良さを自然に出していきたいですね。

三神亮:
焙煎のテクニックで、豆のネガティブな部分を隠すこともできるんです。でも、そうするとその豆の個性まで消えてしまう。それなら、多少ネガティブな部分があっても、それを豆の長所としてうまく出すようにしたいと考えています。

一般的に、コーヒーのおいしさを決めるのは「豆7割・焙煎2割・抽出1割」といわれることがありますが、生豆のクオリティが非常に重要です。どれだけ焙煎や抽出をがんばっても、元々ない味は出せませんから。

自宅のキッチンでもできる!?焙煎にチャレンジしてみよう

――最近は「自分で焙煎してみたい」という声も増えているようです。自宅でコーヒーを焙煎する方法はありますか?

三神亮:
ご自宅の場合は手網か、コンロの上に置く手回し焙煎機を使用する形になると思います。ネット通販などで探すといろいろな物がありますよ。ただ、すごく煙が出るので、屋内でバーベキューをするようなつもりで準備をされることをおすすめします。

本格的に楽しみたいなら、高額にはなりますが、家庭で利用できるサイズのサンプルロースター(※)や電気焙煎機などもあります。

※テスト用の焙煎器具。大型の業務用焙煎機で焙煎する前に少量でテストする際に利用される。

三神仁美:
手網や手回し焙煎機だと、時間はだいたい10分から20分くらいかかるといわれています。火力もポイントで、昔から「遠火の強火」というのですが、家庭だときちんと温度を測るのは難しいですよね。まずは20分くらいを目安にして、コーヒー豆の色や、パチパチと爆ぜる音などを目安に、時間を調整してみてください。それでできた豆を挽いて、飲んでみて、どんな味になるか試してみると楽しいと思いますよ。

――焙煎専用の道具がない場合、代用できるものはありますか?

三神亮:
手軽なのは、中華鍋に生豆を入れて、常にかき回しながら加熱する方法です。ただ、中華鍋だとほとんど対流熱が使えないので、手網に比べて時間がかかるかもしれません。
しかも、ずっと揺すっていなければいけないので、手がとても疲れると思います。なので、できれば手回し式か電動の焙煎機を用意したほうがいいでしょう。

――焙煎するときにやってはいけないことはありますか?

三神亮:
焙煎は好みのものなので、特にタブーはありません。焦げるのが嫌なら焦がさないように注意し、浅煎りが苦手なら深く煎るようにしてください。生焼けや煎りムラがあるかもしれませんが、それも含めて出来上がったコーヒーの味や香りを楽しんでもらえればと思います。

それから、コンロに落ちたチャフ(薄皮)には引火する可能性があるので、こまめに清掃をしてください。万が一に備えて、必ず消火器を用意しておきましょう。

――生豆は、どうやって購入すれば良いのでしょうか?

三神仁美:
Roast Design Coffeeでは、生豆は販売していないのですが、コーヒー問屋さんやネット通販などで購入できると思います。クオリティに特別なこだわりがなければ、まずは購入しやすい少量の物で試してみると良いのではないでしょうか。
信頼できる行きつけのコーヒー店があれば、ダメ元で相談してみるのもひとつの方法です。

ロースターってどんなお仕事?

――ロースターとしてのやりがいを教えてください。

三神仁美:
私たちの願いは、スペシャルティコーヒー(※)を多くの方に知っていただき、もっと楽しんでもらうことです。いつも、それを目指して焙煎しています。お客様が豆を選んだりお店でコーヒーを召し上がったりして喜んでくださると、何よりうれしいですね。

※一定の品質基準を満たし、なおかつトレーサビリティ(生産から販売まですべての履歴が追跡可能なこと)が確立されているコーヒーのこと。産地や品種などによって特性はさまざまですが、いずれも際立った風味が感じられる。

――ロースターの仕事は焙煎するだけではないのでしょうか?

三神亮:
お店によっては、焙煎だけに集中する方もいらっしゃると思いますが、うちのように店頭で販売や抽出をしている場合は、お客様にコーヒーのご案内をすることもあります。
その際には、通常どおりにドリップするのか、マキネッタ(直火式のエスプレッソメーカー)でエスプレッソにするのかといったコーヒーの入れ方のほか、飲みたいシーン、合わせたいお菓子など、具体的な希望を伝えていただくと、ロースターもご案内しやすいと思います。

三神仁美:
酸味や苦味など、味の感じ方は主観的なものなので、もしかすると同じ表現でも認識に食い違いがあるかもしれません。可能であれば、試飲ができると安心ですね。それでも迷った場合は、まず、そのお店の人気商品や定番商品を購入してみることをおすすめします。その上で、「ここが好きだった」「ここはあまり好みではなかった」と感想を伝えていただくと、ロースターもご案内をしやすくなります。

――最後に、コーヒー好きの読者に向けてメッセージをお願いします。

三神仁美:
多くの方に、純粋にコーヒーを楽しんでもらいたいと思っているので、わからないことや知りたいことがあったら何でも気軽に聞いてください。難しそうと考えずに、まずは手軽に試していただけたらうれしいです。

三神亮:
お気に入りのコーヒーに出合うには、自分の好きなお店を見つけるのが一番です。自分に合ったスタイルのコーヒー屋と仲よくなれば、選び方などの知識も自然と身についてくると思いますよ。

<プロフィール>
三神 仁美(みかみ ひとみ)
Roast Design Coffee代表。大手コーヒーチェーン店にて5年勤務、シングルオリジンコーヒー専門店にて3年勤務。バリスタとして1年店頭に立ったのち、品質管理部に所属し、焙煎業務に携わる。「ジャパン エアロプレス チャンピオンシップ2016」2位受賞。「ジャパン バリスタ チャンピオンシップ」に上記専門店の社内予選を通過し、出場経験あり。

三神 亮(みかみ りょう)
Roast Design Coffee商品開発および品質チェックアドバイザー。大学卒業後、スターバックス コーヒー ジャパンに勤めたことをきっかけにコーヒーの可能性に邂逅。紆余曲折を経てスペシャルティコーヒー専門商社に入社。相場考察、産地訪問、品評会審査、大会コーチ、抽出、焙煎、機器提案など、多岐にわたる業務に通じ現在に至る。2014年から「ワールド コーヒー ロースティング チャンピオンシップ」日本代表焙煎コーチ。また、2017~2019年の「ワールド ラテアート チャンピオンシップ」WCE国際認定審査員、「ジャパン バリスタ チャンピオンシップ」認定審査員、「COE(カップ・オブ・エクセレンス)」認定審査員を務める。

Roast Design Coffee
住所:神奈川県川崎市麻生区上麻生1-6-3 マプレGF階
電話番号:050-3743-3304
営業時間:10:00~19:00
定休日:水曜日(祝日の場合は営業)
ショップURL:https://roast-design-coffee.com/
ウェブショップURL:https://roastdesigncoffee.com/

※感染対策に十分に配慮して取材および撮影を行いました
※2021年9月に取材しました

 

執筆者プロフィール

  • 本稿は、執筆者が本人の責任において制作し内容・感想等を記載したものであり、新生銀行が特定の金融商品の売買や記事の中で掲載されている物品、店舗等を勧誘・推奨するものではありません。
  • 本資料は情報提供を目的としたものであり、新生銀行の投資方針や相場説等を示唆するものではありません。
  • 金融商品取引を検討される場合には、別途当該金融商品の資料を良くお読みいただき、充分にご理解されたうえで、お客さまご自身の責任と判断でなさるようお願いいたします。
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