動物学者・今泉忠明さんに聞く!動物から学ぶ、人間と自然のこれから

子供から大人まで幅広い世代から人気を集める大ヒットシリーズ「ざんねんないきもの事典」や「わけあって絶滅しました。」の監修を務めたことで知られる、動物学者の今泉忠明さん。実は、お父さん、お兄さん、そして息子さんも、そろって動物学の研究者一家だそう。
今泉さんは、幼い頃から昆虫や動物に親しんで育ち、学生時代はもちろん、現在に至るまで動物や自然と関わってきたといいます。そんな今泉さんから見た環境保護の大切さや人間の変化について、話を伺いました。

父親の指導のもと、死んだ昆虫や動物を標本にしていた子供時代

――今泉さんはどんな子供時代を過ごされていたんですか?

今泉さん(以下、敬称略):
普通の子供でしたよ。普通の子供っていうのは、いたずらばかりして、泥んこになって遊んでっていう(笑)。

――今泉さんは東京のご出身ですよね。それでも泥んこになって?

今泉:
東京・阿佐ケ谷生まれです。今は住宅街になっていますけど、僕が子供の頃は原っぱだったんですよ。田んぼがあって、川があって。そこでザリガニやカエルを捕って遊んでいました。そのときは動物学なんて関係なくて、ほかに遊ぶものがないから、昆虫でも何でも動物を捕って飼っていました。

――今泉さんと同じ動物学者だったお父さま(今泉吉典氏)の影響もありますか?

今泉:
どうでしょう。飼うなとは言われませんでしたから、何でも飼っていましたけど、それは普通の子供と同じなんじゃないですかね。ただ、父親に言われて、死んだ動物を標本にするようになったのはほかの子と違うかもしれません。

――標本にするというのはすごいですね。

今泉:
昆虫や動物を飼うと、やがて死んじゃうんですよ。もちろん一生懸命介抱はしますけど、昆虫でも犬でも猫でも、みんな死んじゃう。そこで、生き物っていうのはみんな死んでいくものだというのを学びました。
死を受け入れて、どうするか。お墓を作ったりしているうちに、どんどんお墓だらけになっていって…昆虫だからたくさん死ぬんですよ。その様子を父親が見ていて、「標本にしたらずっと残る」と教えてくれました。そこからいろいろなものを標本にするようになりました。

――飼っていた昆虫や動物が死んで、悲しいという気持ちはありませんでしたか?

今泉:

悲しいとか、かわいそうとかっていうのはあんまりなかったかな。だって、標本になって、ほぼ永久に残るんだから。そうやって自分を納得させていましたね。どんなに手をつくしても、必ず寿命がありますから。
いつまでも、「かわいそうだったな」「俺が悪かったのかな」と考えているのはダメ。死に対しては、当時の僕が標本にしていたみたいに、自分を納得させることが大事ですね。それに、昆虫を飼っていると、「食べる」「食べられる」というのが常にあるんです。

――虫かごの中に自然界の縮図があったわけですね。

今泉:

そうですね。自然界というのはそういう風にできているんだと、そこから自然と学んでいきました。僕だって、ザリガニを捕まえるときに、まずカエルを捕まえてきて、それを指で裂いて食べ物にするわけですから。今だったら血も涙もないなと思いますけど、子供の頃はそんなこと思いもしないし、かわいそうと言う人もいませんでした。

――よく「子供は残酷」と言いますけど、それを言うのは大人であって、当の子供は好奇心でそういうことをしているケースも多いような気がします。

今泉:
子供にとって、自然は不思議なんですよね。ありんこはいくら踏んでも出てくるし、巣穴にお湯を流してもなかなか死にません。「それは何でなんだろう?」って、僕も子供の頃は毎日バケツで巣穴に水を入れていました。

――今泉さんの場合は、そういった疑問と、それを知りたいと思う好奇心が今も続いている感じですか?

今泉:
そう。今も好奇心でいっぱいですよ。

哺乳類に関する知識を深めたイリオモテヤマネコの調査

――今泉さんは現在、動物学者としてご活躍ですが、特定の動物というより、哺乳類全般に精通しているのがすごいと思います。

今泉:
元々はモグラとネズミ、コウモリを研究していたのですが、1973年から77年にかけてイリオモテヤマネコを保護するための生態調査に参加した経験は大きかったですね。西表島にいる生物、それこそ哺乳類から鳥類、爬虫類まで、ありとあらゆるものを調べたんです。どれも本州とは違う珍しい種類ばかりで、調査をしながら僕自身の勉強にもなっているという感じでした。
それ以降も富士山周辺の森の調査を行ったり、ネイチャー雑誌のライター兼カメラマンとして世界中の森や山に行ったりして、知識や経験を増やしていった感じですね。

リュウキュウイノシシの頭蓋骨。研究の中で手に入れた今泉さんの宝物!

――ライターとしても活動されていたのですね。今泉さんがこれまで携わられた調査の中で、特に印象に残っているものは何ですか?

今泉:
一番はやはりイリオモテヤマネコですけど、次に挙げるとしたらニホンカワウソですね。1970年代には日本中からニホンカワウソが消えて、高知県の足摺岬周辺にしか残っていないといわれていて。僕は1972年に現地に行きましたが、証拠の写真を撮るまで、延べ6ヵ月くらいかかりましたね。

今泉さんがニホンカワウソの調査をした新荘川(高知県)。

――どういった調査を行うんですか?

今泉:
現地に入ったら、まずはカワウソの気持ちになって、自分がカワウソだったらここに棲むなぁっていう川を見つけるんです。そういう場所を見つけたらテントを張って、ひたすらカワウソが出てくるまで観察して待ちます。

――歩き回って探すというわけではないんですね。

今泉:
広大な自然の中を闇雲に探しても見つからないですからね。イリオモテヤマネコもニホンカワウソも縄張りを持っていて、その範囲を順繰りに周っているんですよ。もし、ここだって選んだ日が彼らが移動しちゃった日だとしたら、次に戻ってくるのはだいたい1週間後。たまたますぐに見つけられたとしても、知りたいことはたくさんあるので、どんな調査も1週間以上はやらないと結果は出ないんですよね。

――そうやって調査して、ニホンカワウソの場合は結果が出るまで6ヵ月…。気が遠くなるような作業ですね。

今泉:
彼らがいる気配はあるんだけど、なかなか写真に収められなかったんですよ。ニホンカワウソが生息しているであろう場所の近くに張り込むんですけど、寝ているあいだに行っちゃってた、なんてことも。

――ニホンカワウソが出てきたことはどうやってわかるんですか?

今泉:
巣の前の砂地をきれいにならしておくと、足跡が残るんです。起きたら足跡がついていたってことが、何回もありました。最初に行ったときもそうで、それがくやしかったから半年通ったんですよね。
でも、結果的にニホンカワウソの生態をじっくり調べることができたから、最初に失敗して良かったなって思いますね。

森の中で過ごす時間を通して、動物や自然保護の大切さを伝えたい

――哺乳類といえば、私たち人間も哺乳類の一種です。今泉さんから見て、人間と動物の違いはどんなところですか?

今泉:
人間は確かに哺乳類だけど、動物ではないんですよね。なぜなら、人間には知恵と先を予測する能力、それから思いやりというものがあります。いわゆる野生動物に、この3つはありません。ただ生きているだけです。対して人間は、先を読み、こうしたほうがいいかなと考える知恵がある。
さらに、人間が持っている思いやりは、大抵の場合、良い方向へ向かうんです。これをしたらいけないよねっていうことを、心がさせないようにしているんですね。

でも、人間は今、自然の中で動物の世界を脱し、人間だけの生態系を作りつつあるように思います。今の人間社会というのはアスファルトでできていて、生き物といえばドブネズミとカラスとスズメくらい。これがあまりよろしくない。
人間と自然は関わりがないっていう人もいるけど、それは違うんですよね。例えば、僕ら人間は酸素を吸わないと生きていけません。その酸素はどこで作られている?自然ですよね。つまり、人間の生態系というのは本来、自然の中にちょこんとあるだけなんです。それを間違えて、人間のほうが自然を支配していると思っているから、地球が汚れてしまう。人間は自然に対して、もっと謙虚であるべきなんです。

――近年はSDGsの意識も高まってきていますが、自然を守るために私たち人間ができること、今泉さんから見て、もっとこうしたほうがいいと思うことはありますか?

今泉:
動物がどうして絶滅するかというと、食べ物となる獲物や植物が少なくて子供が育たないからなんですね。少なくとも、僕がイリオモテヤマネコの調査をしたときはそうでした。なので、保護といえば、獲物や植物を増やすこと、つまり森や自然を守ることが中心でした。でも、今は交通事故で死んでしまうことが多いんですよ。

――そうなんですか。人間には思いやりや知恵があると聞いたばかりですが、動物や自然にとって一番の敵となるのも人間なんですね…。

今泉:
残念ながら、そうなんです。今、イリオモテヤマネコを守ろうと思ったら、車が通る道路に標識を立てて、イリオモテヤマネコが通るためのトンネルや橋を作らなきゃいけないんです。自然保護ってそうやってお金がかかるんですよ。イリオモテヤマネコに限らず、本気で自然を守るのであれば、トンネルや橋以外にも、保護区の周りにきちんとフェンスを作ることも必要です。だから、自然保護をやっているのは、豊かな国だけなんですよね。
日本は、今はちょっと変わってしまったかもしれないけど、一昔前は世界でもトップレベルの豊かさを誇っていたにもかかわらず、自然保護にお金を使ってこなかった。そういう意味では、貧しい国といえると思います。だからお金も、人間だけが持つ思いやりや知恵、先を見る予測能力を使って、良いと思う方向に使うことが大切じゃないかな。

西表島の道路に立つ標識。イリオモテヤマネコとの共存を図っている。

――そういう中で、SDGsに対する意識の高まりは、未来への希望といえそうです。

今泉:
SDGsの意識が根付き、本当の意味で環境が変わるのは、あと100年くらいかかるでしょうね。今の子供たちがSDGsを学び、大人になったときにまた次の世代に伝えていく。進歩というのはそうやって少しずつしか進まないので。でも、だからこそ今、一生懸命その種をまいていかないといけないんです。
なので、僕は今、子供から大人まで、いろんな人を森に連れて行っているんですよ。自分が森で覚えたことを経験してもらおうと思って。

――森に行ってどんなことをするんですか?

今泉:
どうしろってことではなく、自分で感じなさいと言います。森に行ったら、まず目を瞑って、深呼吸をする。そうすると、森のにおいを感じますし、耳をすませば風の音も聞こえます。
それから、足の裏で見なさいと。そう言うと、子供たちは「足の裏でどうやって見るの?」って言いますけど、歩けばわかるんです。アスファルトの上を歩くのと、森の中の歩くのとの違いが。そうやって感じることが大事。特に現代人は目に頼りすぎているから、五感が鈍っているんです。森に行くと、それが呼び覚まされるんですよね。しかも、一番いいのは夜の森。

――夜の森は怖いのでは…?

今泉: 昼間に行って慣れておくと、夜中に行っても大丈夫なんですよ。夜の森が怖いのは、周りが見えないから。でも、目を閉じて感じれば昼間と同じだから、昼間の森を知っていると、子供たちでも夜の森をそれほど怖がりません。そういう経験を、いろんな人にしてもらいたいんですよね。

富士山の麓の森を探索する今泉さん。今もなお好奇心は尽きないそう。

人間はしがらみが多い。だから、動物のように周りを気にしすぎないことが大切

――時折、動物のように周りの目を気にせずに生きていかれたらと思ったりもするのですが、自分が大変だったり、つらかったりするときに、動物学から学べることってあるのでしょうか?

今泉:
人間はしがらみが多いんですよね。動物のように、周りを気にせずに生きることが大事だよってことは、僕も子供たちに教えたい。そうすれば、それほど悩むことはなくなると思うんだけどな。

――癒やしを動物に求める方もいますよね。

今泉:
そうですね。動物が持つ癒やし効果というのは大きいと思います。だけど、動物に寄り掛かりすぎてはいけませんね。動物に寄り掛からせるくらい、人間の側がしっかりしていないと。「お前だけが頼りだよ」なんて寄り掛かっていたら、飼っているペットも逃げますよ(笑)。癒やされるのはいいけど、癒やされっぱなしはダメです。だけど、今の世の中を見ていると、寄り掛かりすぎの人間が多いんですよね。

――それは動物に対してだけでなく、人間関係などにも通じますね。

今泉:
そう。だから、一人ひとりがもうちょっとしっかり立っていたら、世界ももうちょっといいものになるんじゃないかなぁって思うんですよね。人間が動物学から学ぶことはたくさんありますが、人間は、やっぱり人間。動物とは違います。
人間がしっかりしていないと地球もダメになるし、動物もダメになる。その点においては、人間はもっと進歩が必要だと思いますね。

絶滅したとされるニホンオオカミを探しに行くのが目標

――先程、いろいろな人を森に連れて行って、自分の経験を伝えたいとおっしゃっていましたが、それとは別に、今泉さんが動物学者として研究したいテーマや動物はいますか?

今泉:
ニホンオオカミですね。ニホンオオカミは1905年に絶滅したといわれていますが、その後もいろいろな先生が調査を続けている中で、おそらくいるだろうと。10年程前には、九州で調査を続けている野生動物研究家の西田智先生が、極めてニホンオオカミに似ているとされる動物の撮影に成功しているんです。

――極めて似ているというのは、誰がどう判断するんですか?

今泉:
その写真に写った動物がニホンオオカミかどうかを判断するには、元となる標本が必要なんです。その標本は、江戸時代に日本に来ていたシーボルトが収集し、本国に持ち帰ったもので、現在はオランダのライデン国立自然史博物館にあります。
西田先生が撮った写真を博物館に送り、研究者が標本と照らし合わせて調べた結果、「極めてよく似ている」と。研究者は軽はずみに「同じ」とは言いませんから、「極めてよく似ている」ということは、ほぼ同じであることを意味するんですね。なので、おそらくニホンオオカミはいる。今はそれを調べに行きたいなと思っています。僕は好奇心がつきないのでね(笑)。

<プロフィール>
今泉忠明

動物学者(生態学、分類学)。1944年、東京生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業後、国立科学博物館の特別研究生として哺乳類の生態調査に参加。文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画調査、日本列島の自然史科学的総合研究などに参加。動物関連の著作、書籍の監修多数。

 

執筆者プロフィール

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