銀座産サツマイモで芋焼酎!屋上農園が育む地域のコミュニティ

銀座のビルの屋上で育てたサツマイモを使って、芋焼酎を作る。
そんなユニークな活動の仕掛け人が、特定非営利活動法人銀座ミツバチプロジェクト理事長の田中淳夫さんです。 作り上げた芋焼酎「銀座芋人」は、2016年のグッドデザイン賞を受賞。今や、50以上の団体がサツマイモの栽培に参加し、5,000本もの芋焼酎を生産する一大プロジェクトに成長しています。
「サツマイモを通じて、地域のつながりが生まれた」と語る田中さんにお話を伺いました。

銀座の屋上でサツマイモを育てる

――「銀座の屋上でサツマイモ」というのは、とても斬新な取り組みだと思うのですが、なぜ銀座でサツマイモを育てることになったのですか?

田中さん(以下、敬称略):

そもそもの始まりは、2006年に銀座のビルの屋上で蜜蜂を育てる活動を始めたことです。岩手の養蜂家さんから都内で蜜蜂を飼える屋上を探しているという話を聞いて、 「銀座でハチミツが採れたらおもしろいね」と屋上養蜂をスタートしました。10年以上続けてきて、今では約50万匹の蜜蜂から、年間におよそ1.3tのハチミツが採れるようになっています。

――本格的ですね!ハチミツは、販売もしているんですか?

田中:

採れたハチミツは、お菓子やカクテル、化粧品の材料に生まれ変わり、銀座の街のあちこちで味わったり、購入したりすることができます。
養蜂に取り組む中で、ただハチミツを採るだけでなく、蜜蜂が蜜を集めるための蜜源となる植物を育て、地域の環境づくりにつなげようと考えるようになりました。 そのために、屋上を菜園にする屋上緑化の活動を始めたんです。

――屋上を緑化したビルは、銀座に限らず、都市部で増えていますね。

田中:

大きな建物は緑化が義務づけられているので、緑化した建物自体は増えています。ですが、中には手をかける人的・金銭的余裕がなく、始めたものの草ぼうぼうになって、 「耕作放棄地」と化したところも少なくありません。
緑被率(緑に覆われた土地の割合)を高め、地域の環境を良くしたいといろいろ検討する中で、たまたまサツマイモの苗をいただき、屋上菜園で育てたんです。 その苗から、とても大きく立派なサツマイモを収穫できたんですね。そこで、栽培が簡単なサツマイモなら、ほかのビルでも育てられるのではないかと思いました。
そして、さまざまな団体に呼びかけ、2015年から銀座を中心にデパートや大学、結婚式場などの屋上でサツマイモの栽培をスタートしました。

銀座の結婚式場の屋上で、「銀座ミツバチプロジェクト」会員の皆さん、
中央区福祉作業所の方々と一緒にサツマイモの収穫。

銀座のサツマイモから作られた芋焼酎「銀座芋人」

――採れたサツマイモを芋焼酎にするというのは、田中さんのアイディアですか?

田中:

はい。屋上緑化には、水やりの設備や土壌を整えるためのコストがかかりますから、緑化しながら収益を上げ、ビジネスとして成り立つ仕組みを考えなくてはと思いました。 そこで、「焼酎がいいんじゃないか」と思いついたんです。
「屋上で採れたサツマイモで芋焼酎を作りたい」というビジョンを、以前からお付き合いのあった福岡県豊前市の後藤元秀市長にお話ししたところ、 「田中さんの夢を叶えようよ」と言ってくださって。市長の実家である後藤酒造で芋焼酎に加工してもらい、「銀座芋人」と銘打って販売することが決まったんです。
銀座の屋上で採れた分だけでは原料が足りないので、併せて豊前市の福祉施設でも原料のサツマイモを無農薬で栽培してもらうことになりました。 焼酎に使われる水も、地元で名水として有名な神社の湧き水を使っています。

――トントン拍子にお話が進んだわけですね。サツマイモを育てる上で、苦労したことはありましたか?

田中:

最初は収穫する芋が細かったり、コガネムシやネズミに食べられたりしたこともありました。銀座郵便局では、収穫間近のサツマイモを何者かに盗まれるという事件も起こったんですよ。
それでも、サツマイモ栽培に参加する企業や団体がどんどん増え、皆さんの努力のかいがあって、2015年に約50kgだったサツマイモの収穫量が、2019年には約600kgと12倍に増えました。 芋焼酎の生産量も5,000本に達しています。2016年には、芋焼酎「銀座芋人」のコンセプトとパッケージデザインを評価していただき、グッドデザイン賞を受賞しました。

2016年のグッドデザイン賞を受賞した「銀座芋人」。街の人たちの想いが詰まっている。

屋上農園が結ぶ、地域の人と人とのつながり

――今、サツマイモ栽培に参加している団体はどれくらいあるのですか?

田中:

銀座を中心に、デパートや銀行、ホテル、大学など、50以上の企業や団体がサツマイモの栽培に参加しています。玄関先の植栽をサツマイモに替えたり、社長みずから水やり当番を担当したり、 社員が観察日記をつけたり、プロジェクトについて株主総会で紹介したりと、栽培そのものを楽しんでくれている企業もあるようです。

収穫期には「イモリンピック」を開催して、団体ごとにサツマイモの大きさを競っています。出来上がった芋焼酎をみんなで味わうパーティーには、銀座のクラブのママたちも来てくれるんですよ。 豊前市では焼酎を作ったあとの芋かすを利用して放牧豚を育てているのですが、その豚を使った料理もパーティーで振る舞っています。

採れたサツマイモの大きさを競う、毎年恒例の「イモリンピック」。

――芋かすまで利用しているとは、無駄のない仕組みですね!植物を育てたり、芋焼酎を作ったりすることで、環境について考えさせられます。

田中:

自分たちの手でサツマイモの苗を植え、水やりをして育てることを通じて、銀座の街の皆さんが屋上緑化のこと、地球温暖化のこと、環境のことなどを考えるきっかけになっていると思います。 屋上でサツマイモを育てる人も「芋人」ですし、芋焼酎を味わう人も「芋人」。そんな「芋人ファミリー」が銀座を中心にどんどん広がっています。
養蜂から始まった屋上緑化ですが、今ではサツマイモを育てるだけでなく、福島の皆さんといっしょに菜の花を植えたり、長野のリンゴを植えて戸隠神社の宮司さんたちに神楽を披露してもらったり、 全国各地の生産者と消費者がつながるきっかけにもなっているんですよ。
単にお酒を作ることだけが目的ではなく、屋上でサツマイモや農作物を育てることが、人と人のつながりや、新たなコミュニティづくりにつながっています。

紙パルプ会館(銀座)屋上で、ボランティアの学生たちがサツマイモを収穫する。

銀座は新たな挑戦を受け入れる土壌のある街

みずから経営するビルの屋上で養蜂や、野菜・果物を育てるプロジェクトを立ち上げた田中さん。

――田中さんは元々、このビル(紙パルプ会館)の経営を手掛けていたのですよね。蜜蜂やサツマイモを育てる中で、銀座という街への思いに変化はありましたか?

田中:

銀座は、近代以降さまざまなドラマを経験し、新しい文化を受け入れて、変化し続けてきた街です。ちょっと変わった活動や新たな表現も「おもしろそうだね」と受け入れてくれる土壌があります。 養蜂を始めるときや、サツマイモの栽培を始めるときも、街の皆さんは理解して温かく見守ってくれました。
屋上で養蜂をし、サツマイモを育て、人とのつながりが生まれることで、“モノクロの働く場所”だった銀座が、彩り豊かな街として目に映るようになりましたね。 春には季節の花が咲き、屋上にツバメがやってくる。あのビルの屋上ではそろそろサツマイモが実る…というように。

――これから「銀座芋人」を通じて、どんな未来を実現していきたいとお考えですか?

田中:

蜜蜂を飼うことも、芋焼酎を作ることも、いわば「やらなくてもいいこと」なんです。でも、みんなが楽しんで取り組んでいると、おもしろがって自然に人が集まってくる。 思いつきから始まったプロジェクトではありますが、これだけたくさんの人が集まり、続いているのはそこに意味を見出してくれているからだと思います。 その結果、街に緑が増え、野鳥などの生き物も集まって、自然との共生を感じられるようになるのではないでしょうか。将来は、都市が緑に覆われるようになるといいですね。
いずれは海外でも「銀座芋人」が飲まれるようになったり、屋上緑化のソリューションが世界に広がったりしたらうれしいですね。 明るい話題ばかりではない世の中ですが、サツマイモを育て、芋焼酎を飲み、街を愛する「芋人」のネットワークを広げることで、日本が少しでも元気になってくれたらと思っています。

<プロフィール>
田中淳夫(たなか・あつお)
1957年東京生まれ。特定非営利活動法人銀座ミツバチプロジェクト理事長。株式会社紙パルプ会館専務取締役。
2006年3月、「銀座ミツバチプロジェクト」を高安和夫氏と共同で立ち上げる。2007年に特定非営利活動法人の認証を受け、2010年には農業生産法人を立ち上げた。全国から養蜂や地域おこしについての相談が跡を絶たず、講演や交流会など各地を飛び回って活動の輪を広げている。

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