日本酒で人生をもっと楽しく!「初めて」から始める日本酒の世界

繊細かつ多彩な味わいと日本らしいこだわりのモノづくりが評価され、海外でも人気が高まっている日本酒。フルーティーで甘さを感じる日本酒が登場してから、国内でも「お祝いのときに飲むお酒」「年配の男性のお酒」といった従来のイメージが少しずつ変化し、若い世代の人気が高まりつつあります。
一方で、日本酒の選び方がわからないまま、何となく敬遠している人が多いのもまた事実。エッセイストで酒ジャーナリストの葉石かおりさんは、「日本酒を知ると、人生の楽しみが広がる」と、日本酒をわかりすく伝え、楽しく付き合う方法を広める活動をしています。
知ればきっと生活に取り入れたくなる日本酒の世界。自分好みの日本酒を見つけるためのヒントを、初心者向けにわかりやすく教えていただきました。

米と水から、多彩な味が生まれる不思議

――日本酒をこれから知ろうとする方のために、まずは日本酒の原料から教えてください。

葉石さん:(以下、敬称略)
日本酒の主な原料はいたってシンプル。米と水だけです。
昔ながらの米の味を感じる純米酒やスパークリング系の日本酒、フルーティーな果実感を感じる物など多彩な味わいがあるのに、そのどれもが米と水からできているなんて、それだけでも驚きに満ちていると思いませんか?
さらに、日本酒づくりに欠かせない麹菌の存在も、とても不思議。日本酒を醸すときは、まず蒸した米に麹菌を加えて、米の主成分であるでんぷんを糖化させた米麹を造ります。その後、米麹に水と蒸米を加え、アルコール発酵に必要な酵母菌を育成します。

実は、元々の米の成分には、酵母菌がアルコールを発酵するために必要な糖がないんです。麹菌が米のでんぷんを糖化させることで、初めて酵母菌による日本酒のアルコール発酵が可能になるんですね。つまり、日本酒は麹菌なくして、醸すことができないわけです。
でも、先人たちはどうやって、麹菌と酵母菌を利用した複雑な日本酒の醸造法に気が付いたんでしょうか。そんな先人たちの努力や工夫に思いを巡らせると、日本の国酒の奥深さをあらためて実感できますよ。

――なんだかワクワクしてきました(笑)。日本酒に興味はあるけれど手が出にくい理由のひとつに、種類のわかりにくさがあると思うのですが、覚え方はありますか?

葉石:
「特定名称酒」と呼ばれる日本酒を覚えておくといいですね。この特定名称酒は、原料や精米歩合、特別な製造方法によって8種類に分類されています。

■特定名称酒の分類

特定名称 使用原料 精米歩合 香味等の要件
吟醸酒 米、米麹、醸造アルコール 60%以下 吟醸造り、固有の香味・色沢が良好
大吟醸酒 米、米麹、醸造アルコール 50%以下 吟醸造り、固有の香味・色沢が特に良好
純米酒 米、米麹 - 香味・色沢が良好
純米吟醸酒 米、米麹 60%以下 吟醸造り、固有の香味・色沢が特に良好
純米大吟醸酒 米、米麹 50%以下 吟醸造り、固有の香味・色沢が特に良好
特別純米酒 米、米麹 60%以下または特別な製造方法(要説明表示) 香味・色沢が特に良好
本醸造酒 米、米麹、醸造アルコール 70%以下 香味・色沢が良好
特別本醸造酒 米、米麹、醸造アルコール 60%以下または特別な製造方法(要説明表示) 香味・色沢が特に良好

※国税庁「清酒の製法品質表示基準」より

とはいえ、最初は「本醸造タイプ」と「純米タイプ」があることを知っていれば十分。この2つの違いは、醸造アルコールを使用しているかどうかです。使用している物は本醸造タイプ、使用していない物は純米タイプですね。

ちなみに、醸造アルコールに「お酒を薄める物」「余計な物」といったネガティブなイメージをお持ちの方も多いのですが、まったく悪い物ではありません。醸造アルコールは香りや味を整え、品質を安定させる目的で使われていて、特定名称酒では添加率も厳しく規定されています。

――醸造アルコールの有無で、味は変わってくるのでしょうか?

葉石:
本醸造タイプのほうがやや軽快な味になる傾向がありますが、あくまでも傾向であって、言われなければわからないほどの違いです。目隠しして試飲したら、純米タイプと本醸造タイプを区別できる人はあまりいないかもしれません(笑)。

日本酒には、さまざまな味わいの違いがある

――好みの味わいを見つけるために、日本酒の味わいの違いや表現方法を知っておきたいのですが…。

葉石:
今は、日本酒造りの世界でも技術革新が進んで、酒質設計の段階から目的の味わいを決めて醸造する手法が主流になり、日本酒の可能性はさらに広がりました。
さっぱりしたスパークリング系の日本酒の中でも、甘い物もあればセミドライ、ドライもありますし、甘みと酸味が共存する物、昔から変わらぬ辛口などなど、実にさまざまな味わいが存在しています。

――具体的に日本酒には、どのような味わいの物がありますか?

葉石:
日本酒の味わいは、大きく分けて「フルーティータイプ」「軽快タイプ」「旨口タイプ」「熟成タイプ」の4つがあります。それぞれ味に特徴がありますので、自分が飲んでいる日本酒がどのタイプなのか、考えてみるのも楽しいですよ。

・フルーティータイプ
フルーティータイプは、バナナ、マスカット、りんごなどの果実を思わせる、華やかな香りと甘みが特徴。グラスに注ぐと香りが鼻に抜け、その余韻が長く続く。味はジューシーでさわやかな物が多いが、軽快な物もある。

・軽快タイプ
軽快タイプは、いわゆる「淡麗辛口」と呼ばれるタイプで、香りは穏やか。甘みは少なめで、すっきりとした酸味と辛味が程良く感じられる。一番の魅力は、飲み口のキレの良さで、口の中に残るようなことはなく、スッと消える。

・旨口タイプ
軽快タイプと同様、旨口タイプの香りは穏やか。米を炊いたときの香りのような、米にリンクする香りがある。口に入れると、甘みと旨味がたっぷりで、舌の上で米のインパクトある旨味が広がり、余韻はしっかりと長めに残る。

・熟成タイプ
熟成タイプは、日本酒を長く寝かせた物。アミノ酸と糖が「メイラード反応」と呼ばれる化学変化を起こし、濃い琥珀色になる。紹興酒やドライフルーツのような香りと、複雑な味わいが特徴。甘みと旨味が万華鏡のように入れ替わる、奥行きのある味わい。

■日本酒の味わいがわかる4つのタイプ

同じ日本酒でも、冷やとお燗ではまったく違う物に

――日本酒を冷やしての飲むのと、お燗にして飲むのでは、味わいに違いが生まれますか?

葉石:
まったく違う味わいになりますよ。高級なお酒を燗酒にして飲むというと眉をひそめる方もいらっしゃいますが(笑)、私は基本的に何でも燗酒にしてOKだと思っています。
日本酒は温度が上がると、甘みが酸味を飛び越えていくので、酸味が強いお酒もお燗にすることでまろやかになるんです。買ってきた日本酒が「ちょっと酸っぱめだな」「酸が強くて硬い感じがするな」と思ったら、ぜひ燗酒にして飲んでみてください。味が丸くなって、飲みやすくなります。

反対に、甘みが強い日本酒を引き締めたいときは、冷蔵庫などでキリッと冷やすのがおすすめ。キレのある、軽やかな喉越しに変わります。
冷たくしても、温めても、日本酒は温度によって引き出される味が違ってくるので、お酒の種類と合わせて好みを探ってみてくださいね。

――いろいろな日本酒を試してみたくなりますね。

葉石:
ネットで検索してみると、日本酒のラインナップにこだわった酒屋さんや飲食店が見つかると思います。デパ地下や大きめのスーパーマーケットのお酒売り場もいいですね。何をどう選んでいいかわからないときは、好みや飲んでみたい味わい、合わせたい食事などをお店の方に伝えて、アドバイスしてもらいましょう。

日本酒にまつわる仕事をしていますが、実は私もよくお店の人におすすめを聞いています。その人ならではのこだわりや経験に基づく意見が新しい発見をもたらしてくれることも多くて、とても勉強になるんですよ。
日本酒は季節によって名前と味わいが変わるので、「今の時期においしいお酒」を聞いて、日本酒で四季を感じるのもおもしろいですね。「しぼりたて」「元旦しぼり」「ひやおろし」などが、代表的な季節の日本酒です。

・しぼりたて
しぼりたては、読んで字のごとく、搾ってすぐに出荷された新酒のこと。みずみずしさが魅力。

・元旦しぼり
元旦しぼりは、年明けの朝に絞り、当日中に出荷するお酒のこと。お正月にぴったりの縁起物。

・ひやおろし
ひやおろしは、夏の暑さが一段落し、秋めいてくると登場する、円熟味のあるお酒。

飲み方に気を付けて、日本酒と長く良いお付き合いを

――日本酒をより楽しむために、知っておきたいことや注意点があれば教えてください。

葉石:
日本酒と上手に、長く付き合っていくには、健康でなくてはなりません。休肝日を設けて、肝臓をいたわることも大切です。
悪酔いや二日酔いを避けるために、おつまみを食べる順番にも注意しましょう。アルコールは通常の場合、最初に約20%が胃で吸収され、残りは胃より吸収速度が速い小腸に送られます。ですから、なるべく長くアルコールを胃に滞留させれば、アルコールの吸収を抑えることができます。そのためには、最初に油分の多いおつまみを食べることを心掛けてみてください。油は胃に滞留する時間が長く、アルコールを小腸に送る時間を遅らせてくれるんです。

それから、日本酒を飲む際には、必ず同量かそれ以上のお水を飲むことを忘れずに。水を飲むことでアルコール度数が下がりますし、脱水症状になるのも防いでくれます。

――今すぐ日本酒を選びに行きたい気持ちになりました!最後に、これから日本酒に親しむ人に、アドバイスをいただけますか。

葉石:
たくさん知識をお伝えしておいて申し上げにくいのですが(笑)、知識はあくまでベースとして知っておくにとどめ、気になる日本酒を自由に親しんでみてほしいと思います。
日本酒初心者の皆さんに大切にしてほしいのは、自分の味覚。「おいしい!」「これが好き!」と感じたら、それがどんなタイプの日本酒でもいいんです。うんちくに振り回されて選択肢を狭めてしまうのは、とてももったいないこと。初めのうちは、頭より感覚で日本酒を味わってみてくださいね。
「おいしいな」と思った日本酒は、写真に撮ってSNSなどにアップしたり、メモしたりしてデータとして蓄積しておくと、少しずつ自分の好みが見えてきて、より楽しめると思いますよ。


<プロフィール>
葉石 かおり(はいし かおり)

東京都練馬区生まれ。ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、エッセイスト・酒ジャーナリストに。全国の清酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核に、味覚センサーと人間によるデータにもとづいたロジカルペアリング、中国料理と日本酒・本格焼酎のペアリング(JFOOD)などを提案。明確なロジックを付加した講演、セミナー活動、酒肴のレシピ提案を行う。人材育成にも注力し、2015年に一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを設立。国内外にて世界に通用する酒のプロ、サケ・エキスパートの育成に励んでいる。
「まんが&図解でわかる はじめての日本酒」(マイナビ出版)、「日本酒のペアリングがよくわかる本」(シンコーミュージック)、「日本酒マニアックBOOK」(シンコーミュージック)など、著書多数。
 

執筆者プロフィール

  • 本稿は、執筆者が本人の責任において制作し内容・感想等を記載したものであり、SBI新生銀行が特定の金融商品の売買や記事の中で掲載されている物品、店舗等を勧誘・推奨するものではありません。
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