コーチングのプロに聞く!子育て&部下育成に役立つコーチング活用術

子供や部下を育てながら、いくら教えても結果が出ない、何を言っても行動に結びつかない…そんな悩みを抱えたことはありませんか?今回ご紹介するのは、子育てや部下の育成に役立つ「コーチング」という手法です。
コーチングのプロフェッショナルである人材開発コンサルタントの菅原裕子さんに、コーチングとは何か、その目的やコーチングのポイントなどを教えていただきました。

コーチングとは?なぜ、今コーチングが必要なのか

――コーチングは、どのような考え方で行う育成方法なのでしょうか?

菅原さん(以下、敬称略):
コーチングについてお話しする前に、まずは人の意識についてお話ししましょう。

※参考:ハートフルコミュニケーション「育みたい3つの価値観」より

人の意識は「顕在意識」と「潜在意識」の二層構造で、それらは氷山に例えて説明できます。水面より上に出ているのが顕在意識です。顕在意識として認知できるものの代表は、いわゆる学力などを含む「知的能力」。テストの点数や仕事の成績として可視化されやすいものです。

一方、水面下にあって見えないけれど、顕在意識よりも意識の大部分を占めているのが潜在意識です。コーチングでは、顕在意識のみならず、この潜在意識の部分にも働きかけます。
認知できない潜在意識として水面下に隠れているのは「自己コントロール」「やる気」「コミュニケーション力」「忍耐力」「やりぬく力」「柔軟性」「寛容さ」といった、可視化しづらい能力の数々です。

ほかにも、潜在意識の中には、まるでウイルスのような不要物もたくさん混ざっています。「人間関係で悩むことが多い」「いつも途中で投げ出してしまう」「何でも誰かのせいにする」「何かと中途半端」といった傾向は、潜在意識の中に潜むウイルスに起因しているともいえるでしょう。
子供や部下の成績を上げたいと思ったとき、私たちはつい、目に見えやすい顕在意識、つまり知的能力の部分に注目しがちです。ところが、氷山の例えでわかるように、顕在意識を支えているのは水面下にある潜在意識の部分です。知的能力を伸ばすためには、潜在意識に働きかけていくことが不可欠なのです。

――コーチングというと、よくいっしょに聞かれるのが「ティーチング」ですが、違いは何でしょうか?

菅原:
コーチングを語る上でよく比較して語られるのが、知識を教えるティーチングです。「どこが違うの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。いずれも、人を指導する際に取り入れる手法ですが、本質はまったく異なります。どちらが良いというものではなく、2つはセットとして考えるのがいいでしょう。

ティーチングは、「相手は答えや知識を持っていない」という前提で、教える側が知識を与える一方向のコミュニケーションです。コーチングは、「相手の中に答えはある」ことを前提に、対話を通してともに答えを見つけにいく双方向のコミュニケーションです。 ティーチングで得た知識をどう学び、どう使っていくのか、「学び方を学んでいくこと」がコーチングといえます。

本人が自身と向き合うことで思考が変化していき、やがて行動に結び付いていく。対話を通してそれらを促していくコーチングは、ティーチングに比べて時間がかかります。
今だけのことを考えれば、「ああしなさい、こうしなさい」と教えてしまえば早いかもしれません。ただ、それでは相手の自律心を育てることは難しいでしょう。長い目で見れば、子育ても部下育成も、コーチングを取り入れたほうが早いと私は思います。

――自律心という言葉が出ましたが、自律した人を育てることが、コーチングを行うことの目的ということでしょうか?

菅原:
そうです。コーチングの目的は、「自律した人間を育てること」です。コーチングにより、子供や部下の自律を促すことができ、子供や部下が自律することによって、自発的に考えられる人になります。
学校や職場で何かが起きたとき、自律している人は「現実を受け入れ、対策を練り、解決に向かって進んでいくこと」が可能です。一方で、自律していない人は、起きている出来事を前にどうしたらいいかわからず、現実と向き合えずに、誰かが解決してくれるか、時が解決するのを待つのです。

自律とは、「自分の問題を自分事として引き受けられること」です。その力を養うコーチングは、子供に対して行うことはもちろんですが、特に職場で今後ますます必要になってくると考えられます。というのも、近年、働き方が大きく変わる中、新型コロナウイルスの感染拡大がその傾向に拍車をかけました。
長時間労働を良しとする風潮は変わり、リモートワークが浸透すれば「とりあえず会社に行っていればOK」という考えは通じなくなります。きちんと自分と向き合い、自分の活かし方をわかっている人だけが高い能力を発揮し、仕事で結果を出していくことになるでしょう。企業においては、上司が部下をそのような人間に育てていくことが求められると考えられます。

コーチングの方法とは?具体的なポイントを解説

――では、コーチングの具体的な方法について教えてください。

菅原:
最初の一歩は、信頼関係を築くことです。
対話を必要とするコーチングは、相手と自分のあいだに信頼がなければできません。ですから、コーチングはまず相手との信頼関係を築くことから始まります。そして、その信頼関係がコーチングを行っていく上でのベースとなります。
信頼関係を築くというのは、心理的に安全な場を創るということです。それは、「この人の前でなら安心して自由に発言し、質問できる」「何を言っても受け入れてもらえる」「失敗はない」と思える環境です。その環境において、人は自由に挑戦し、学び、成長します。この環境があってこそ、相手の潜在意識に働きかけていくことができ、子育てにおいては自己肯定感を育むことができるのです。

例えば、お子さんと対話しようとしても、「お母さんと話したくない」「お父さんには言えない」などと、子供が対話に応じなければコーチングはできません。部下の場合でも同じです。このような場合は、まず信頼関係を築くことに力を注ぐ必要があります。

――何でも言ってもらえる信頼関係がコーチングの基本なんですね。

菅原:
コーチングにおける最大の武器は「傾聴」です。上司や親は自分の伝えたいことをどう表現するかを考えますが、それ以上に重要なことが、まず部下や子供の話に、熱心に耳を傾けることです。
傾聴は、コーチングの前段階である信頼関係を築くときにも有効です。相手の話に耳を傾け、「へえ、それってどういうこと?」「そうなんだね」というように、相手の言うことを受け止めながら、対話をしていきます。このときポイントとなるのは、こちらの都合で話を誘導するのではなく、「相手が話したいこと」や「話さなければいけないと相手が感じていること」を引き出せるよう心掛けること。
「勉強しなさい」「宿題しなさい」ではなく、対話をしながら本人が自分の考えを確認し、自身と向き合い、「勉強しなくちゃ」「宿題をしよう」と気付いていくための声掛けが必要なのです。

――コーチングで使えるおすすめのフレーズには、どのようなものがありますか?

菅原:
よく聞かれる質問です(笑)。実は、コーチングに魔法の言葉はありません。
「傾聴する」「真摯な姿勢で相手の話を聞く」というのは誰に対しても共通して必要なことですが、具体的にどのような言葉でアプローチしていくかは、相手の気質や背景によって、一人ひとりまったく違ってきます。
例えば、「君ならできるからがんばってみろ」という言葉がプラスになる人もいれば、マイナスになる人もいます。相手をよく理解し、「その人にとってプラスになる言葉」をかけ続けていくことが大切です。

――傾聴する姿勢が大切ということですね。では、自律を促すためのポイントをお聞かせください。

菅原:
自律を促す方法は、タスクの責任を本人に任せることです。任せるタイミングとしては、ティーチングしたことがある程度できるようになったとき。タスクの責任を渡し、行ったことに対して、必ず本人に自分でレビューをさせましょう。

例えば、ある資料を作ることがタスクとしてあったとします。資料を仕上げて部下が持ってきたとき、それを見てコーチである上司が、「ここはもっとこうしたほうが良い」などと、一方的にレビューするのはNGです。
努力した点は認めながら、「自分ではどう思う?」「もう少し改善したいところはある?」など、本人からも自己レビューを引き出せるよう問いかけていきます。そうすることで、自分のタスクを振り返る習慣が育ちます。

――やり遂げたことを受け止め、ほめて伸ばすのでしょうか?

菅原:
タスクをこなしてきたときに注意してほしいのは、失敗やレベルの低いものを、「受け止めるだけ」では成長しないということです。評価レベルに達していないものを、「できた」としてはいけません。

コーチングでは、常にポジティブな声掛けを心掛けますが、それは何でもほめて認めるということではありません。本人にレビューさせた後に、「ここがもう少しこうだったら、もっと良くなると思うよ」などと、ポジティブな声掛けをしながら、本人が発揮できるベストのレベルまで求めることが大切です。
また、何かに失敗したときも同じで、「次、がんばろうね」では成長にはつながりません。「今回の経験から何を学べたかな?」と質問し、何が足りなかったのか本人にレビューをさせ、次につながる学びを明確にさせるところまで持っていってこそコーチングなのです。

コーチングで変わる未来

――コーチングのためには、コーチをする側も大きく変わらなければなりませんね。

菅原:
うまくコーチングをすることで変わるのは、子供や部下だけではありません。コーチ自身の成長にもつながることをぜひ知ってほしいと思います。
私は、これまで多くの子育ての現場や職場で、コーチングを提案してきました。そこで感じるのは、子供あるいは部下の成長は、コーチする側の精神性や成熟ぶりに大いに比例するということです。コーチングのプロセスというのは、実はコーチ自身の自己成長のプロセスでもあります。部下や子供の成長を促しながら、コーチも成長していきます。

コーチが「自分もいっしょに成長しよう」という認識を持てて、初めてコーチングはうまくいくのではないでしょうか。そういった認識を持つためには、やはりコーチ自身も自分の成長を潜在意識レベルから捉えていくことが重要です。

コーチングによって日本の社会が明るくなるように

――今まさに、子育てや部下の育成中である方に対して、メッセージをお願いします。

菅原:
コーチングとは、未来を作るものでもあります。職場でのコーチングがうまくいけば、コーチングを受けた社員は会社を信頼し、「この会社にこの先も貢献していきたい」と思います。優秀な人材を流出させず、企業の将来につながっていくのではないでしょうか。
家庭も同様です。コーチングによって、子供が親に深い信頼を寄せるようになれば、成長した後も良好な親子関係で人生を過ごせるでしょう。

今まさに、子供や部下の育成に悩んでいらっしゃる方に伝えたいことは、「子供や部下の未来はすばらしい」と思えたら、あなたはきっと良いコーチになれるはずだということです。そして同時に、コーチとなる自身にも、もっとすばらしい未来があると信じてほしいのです。相手とともにすばらしい未来を探していくのだという気持ちを持って、子供や部下に向き合ってみてください。

<プロフィール>
菅原裕子(すがはら ゆうこ)

ワイズコミュニケーション代表取締役。NPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事
人材開発コンサルタントとして企業の人材育成に携わる一方、その経験と自身の子育て経験から、子供が自分らしく生きることを援助するためのプログラム「ハートフルコミュニケーション」を開発。「子どもの心のコーチング」(PHP文庫)、「コーチングの技術」(講談社現代新書)など著書多数。「我が子のコーチになって疑問や悩みを自信に変えよう」と、ハートフルコーチ養成講座(オンライン)開催中。

NPO法人ハートフルコミュニケーション

※2021年6月に取材しました。

 

執筆者プロフィール

  • 本稿は、執筆者が本人の責任において制作し内容・感想等を記載したものであり、新生銀行が特定の金融商品の売買や記事の中で掲載されている物品、店舗等を勧誘・推奨するものではありません。
  • 本資料は情報提供を目的としたものであり、新生銀行の投資方針や相場説等を示唆するものではありません。
  • 金融商品取引を検討される場合には、別途当該金融商品の資料を良くお読みいただき、充分にご理解されたうえで、お客さまご自身の責任と判断でなさるようお願いいたします。
  • 上記資料は執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を新生銀行が保証するものではありません。

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